ストーリーのあるワインと暮らし

Wine & Story

日本ワイン・塩尻特集 vol.3 ワイン造りの理想郷
塩尻で生まれた個性派ワイン

(8時間)
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塩尻特集、前回は、代表的なワイナリーのワインで塩尻ワインの実力を示したが、今回は、2000年以降に参入した、新進気鋭の作り手たちのワインを紹介する。多くは、私が通う「塩尻ワイン大学」の先輩たちのワインである。
 
なぜ塩尻がワイン造りの理想郷なのか?
現在、日本のワイナリー数は500軒超、2000年には180軒だったというから、急速な増え方だ。県別に見ると、山梨、長野、北海道の順。それが2026年、長野が山梨を超えて日本一になるという。2015年時点では、山梨82軒、長野32軒だったが、長野に新規参入が続き、ついに逆転するのだ。

長野にワイナリーが集まる理由のひとつは、温暖化の進行。山梨、長野ともにブドウ栽培の適地とされてきたが、昨今の温暖化で、200mほど標高の高い長野のブドウ栽培の評価が上がったのだ。

もうひとつの理由は、行政の後押しにある。長野には小規模な生産者の製造免許取得を優遇するワイン特区が15地区、32市町村で制定されている。さらに、補助金や、畑や土地の紹介など、さまざまな支援がある。さらに、塩尻ワイン大学などの教育環境もある。長野はワイナリー開業の聖地であり、塩尻はその中心なのだ。

次からは、2000年以降に塩尻でワイン造りに参入した、新進気鋭の作り手たちのワインを紹介する。多くは、私が通う「塩尻ワイン大学」の先輩たちのワインである。

いにしぇの里葡萄酒/マスカットベーリーA Berriva
マイクロワイナリー、希望の星
いにしぇの里葡萄酒は、塩尻出身の稲垣雅洋さんが立ち上げたワイナリー。ほんとに小さなワイナリーだが、日本ワインコンクールで、2024年に金賞を受賞、以降も上位入賞を続ける実力派である。もともと本職が料理人であった稲垣さんは、2006年塩尻駅前で長野県産のワインと地元産の食材のレストランを営むなかで、ワイン造りの情熱を持ち、実家の北小野の畑でブドウ栽培をスタートした。2014年に「塩尻ワイン大学」が開講されると1期生として、4年間、栽培から醸造、経営までを学び、委託醸造で経験を積んで、2017年、塩尻市のワイン特区の第1号としてワイナリーを設立した。ワイナリー名「いにしぇの里」とは、フランス語の「initie(イニシェ・はじまり)」と小野地区の歴史からくる「古(いにしえ)」からの命名。ナイアガラ、シャルドネ、マスカット・ベーリーA、ピノノワール、メルローなどの多くの品種のワイン造りに取り組んでいる。
このワインは2024年のコンクールで金賞を受賞したワインの別バージョン。契約農家小松孔明さんから仕入れたマスカット・ベーリーAの品質が高かったからこその受賞というが、稲垣さんの醸造の工夫が隠れている。話を聞くと、彼のワイン造りは、ワインごとに細かくコントロールされ、補糖、補酸、樽の効かせ方、時には乾燥した梗を加えてタンニンを足すなど、細かな工夫の積み重ねてワインを仕上げている。
日本ワインコンクールでは、2024でマスカット・ベーリーA 「Fluffy」 が金賞。2025でこの「Berriva」が銅賞、2026ではメルローの「円環」が銀賞を受賞している。

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参考価格 ¥2,970 (2024) 750ml

ヴォータノワイン/カベルネフラン
目指すは長期熟成型の本格ワイン
VOTANOは、元設計士の坪田満博さんが2012年に洗馬(せば)に立ち上げたワイナリー。イタリアワインのバローロに出会ってワインに目覚めたことから、ワイナリー名もイタリア風。「ツボタの」から「ボタの」、それをイタリアっぽく「ヴォータノ」と読み替えたという。53歳で建築設計事務所を辞め、ココファームワイナリーで修行。ブルース・ガットラヴさんから醸造を、曽我貴彦さんから栽培を学んで、2002年に塩尻に移住してワイン造りをスタートした。
畑は、塩尻市洗馬の奈良井川沿いにある。ジュラ紀地層の木曽・飛騨山系から流れ出すミネラルを含んだ石だらけの土地で、メルロー、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワール、シラー、ケルナー、シャルドネ、ソーヴィニヨンブランなど、多彩なブドウを育てている。栽培は、無肥料、減農薬栽培で、遅摘み、醸造は、赤・白ともに皮ごと醸しを行い、野生酵母で発酵して、無濾過で瓶詰めする。
このワインは、VOTANOの代表ワインであり、最近塩尻でも注目されているカベルネ・フラン。塩尻の老舗ワイナリーの標準より濃く力強く、長期熟成を念頭に置いた造りだ。洗馬の特徴である、ミネラル感が表現されたワインである。

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参考価格 ¥6,000(2024) 750ml

ベリービーズワイナリー/ルヴァンデュボヌール ナイヤガラ
地元企業による塩尻らしさの再生

ベリービーズとは、日本のへそ(belly)に位置する塩尻で、ブドウやワインを介して、ビーズのように人をつなげたいとの思いを込めた名前だという。松本市を中心に多くの飲食店を展開する王滝グループのワイナリーで、荒廃したブドウ畑を再生し、地元を活性化したいという思いがそこにある。ワイン造りを担うのは、1期生のひとり、川島和叔さん。ワイナリー立ち上げから関わり、並行して111(イチイチイチ)ヴィンヤードで自身のワイン造りも行っている。
ベリービーズの主力は、ナイアガラとコンコード。塩尻で古くから栽培されるかつての主力品種だが、フォクシーフレーバーというジュースのような甘口の強い香りがワインらしくないと、昨今はあまり人気がない。ベリービーズでは、そのナイアガラを、強い香りが出る前に早摘みし、問題のフォクシーフレーバーを抑え、酸のあるすっきりした⾟⼝のワインに仕上げている。王滝グループは、寿司、そば、居酒屋が中心。ナイアガラの辛口は和食を念頭に造られている。

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参考価格 ¥1,650(2025) 750ml

丘の上 幸西ワイナリー/シャルドネ
いい風が流れる丘の上の小さなワイナリー
丘の上 幸西(こうにし)ワイナリーは、塩尻市片丘の「アルプス展望しののめのみち」沿いにあるマイクロワイナリー。標高およそ800m、ワイナリーからは北アルプスがきれいに見える。地元企業であるセイコーエプソンに勤務していた幸西義治さんが、早期退職して開設したワイナリーだ。きっかけは塩尻に赴任したこと。塩尻でワインに出会い、2010年に塩尻市観光ワインガイドの認定を受け、その後、長野県のワイン生産アカデミーや里親ワイナリー研修に参加。2014年から塩尻ワイン大学1期生として学び、2015年にブドウ栽培を開始。2019年に醸造免許を取得して、ワイナリー設立に至った。畑は標高800m、北アルプスがきれいに見える片丘の丘の上、風がよく通る畑で、メルロー、カベルネフラン、カベルネソーヴィニオン、シャルドネ、ソーヴィニヨンブランを栽培している。塩尻ワイン大学の授業でも訪問したが、畑はきれいに整えられ、区画ごとの特徴に合わせた品種が植えられていた。幸西さんが重視しているのは、ブドウの観察だという。日々ブドウの様子を見て、できるだけ農薬の使用を避け、除草剤は使用せず、自然な育成を目指す。そして、塩尻でも注目の土地、片丘のテロワールを表現することだ。
このワインは、軽めだがすっきり爽やか、飲みやすいタイプ。石灰岩の混じる土壌に植えられたシャルドネとソーヴィニヨンブランの評判がいいようだ。

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参考価格 ¥2,860(2025) 750ml

ドメーヌ・スリエ/ TEZUKURI
農地再生から始まったワインプロジェクト

最近、経営が変わったドメーヌ・スリエだが、もともとは土木・建設業とカフェを営業する地元企業・塩尻建友が、荒廃する遊休農地の再生を期して塩尻ファームを設立したことに始まる。塩尻ファームは、2013年に高齢化によって荒廃しかかった畑を引き継ぎブドウ栽培をスタート、2019年にワイナリーを設立。あわせて、地元のコシヒカリを使った米粉パンを作るべーカリーも立ち上げた。手作りパンとワインの店として、塩尻ではそれなりに認知されていたと思うが、2026年、IT起業家・御手洗大祐さんが、農地再生の意志を引き継ぎ、事業承継した。
実はこのワイナリー、2年連続で塩尻ワイン大学の醸造実習を行なったこともあり、よく知っている。醸造責任者の唐沢義信さんは元JA塩尻市ワイナリーでワイン造りの経験を積んだベテラン。実習で造った我々のワインの出来はよくなかったが、彼ら自身のメルローは凝縮感のあるなかなかのものだった。この「REVIVRE TEZUKURI(ルヴィーブル・てづくり)」は、ルヴィーブル再生というワイナリーの使命と彼らの意欲を示す赤ワインで、メルロー60%、カベルネ・ソーヴィニョン33%、残りはタナとプティ・ヴェルド。彼らが本気で造ったボルドールタイプ、エチケットはスタッフたちの「手形」であるという。濃さもあり、バランスのいい素性のいいワインと思った。

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参考価格 ¥3,960(2023) 750ml

ハセドコダワール/HILLS カベルネソーヴィニヨン
こだわりの土で本格ワインを目指す

ハセ・ド・コダワールもまた、塩尻ワイン大学の1期生によるワイナリーだ。松本市のワイン特区制度を利用して2022年に立ち上げたワイナリーだが、塩尻市片丘にも圃場を持ち、シャルドネ、ピノ・ノワール、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネフランなどを育てている。代表の長谷川福広さんは、塩尻ワイン大学の1期生、奥さんの洋子さんも4期生として学んでおり、私の同級生になる。長谷川さんは長く大手薬品会社に勤務されたそうだが、もともと千葉大学の園芸学部農芸化学科で学んだ土壌の専門家である。彼はその専門知識を活かして、草生栽培や天然由来の肥料による土作りを行っている。
聞いたところでは、貝殻を使ったカルシウム剤を使って、ブドウ栽培に合わせた土壌改良を行っているという。ヨーロッパのワインの銘醸地は石灰質土壌が多いが、日本の土壌のphは酸性に傾いている。それをブドウに最適な環境に整えているのだ。
このワイン、「HILLS」シリーズは、塩尻を含む松本平からきたネーミング。標高約780mの片丘の圃場で草生栽培されたカベルネ・ソーヴィニヨン。フレンチオーク樽で熟成され、凝縮感のあるワインだ。ワインへの取り組みはまだ道半ばだと思うが、この土壌作りがいずれ実を結ぶはずだ。このハセドコダワール、リカーハウスながはらでは、注目の生産者として、いにしぇの里葡萄酒とともに、おすすめされている

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参考価格 ¥3,740(2023) 750ml

霧訪山シードル/ピノグリ
塩尻のオレンジワイン
霧訪山(きりとうやま)シードルもまた、塩尻ワイン大学卒業生のワイナリーだ。代表の徳永博幸さんは、デザイン会社に勤務したあと、諏訪市に本社があるセイコーエプソンに転職し、この地にやってきた。彼が興味を持ったのは、フランスの発泡リンゴ酒のシードル。そしてシードルの醸造を目指して、2014年に開校した塩尻ワイン大学の1期生となった。仕事の傍ら、共通点の多いブドウ栽培とワイン醸造を学び、松本市のリンゴ農家のもとで栽培技術を学び、フランスにも出かけた。そして、霧訪山の後継者のいないリンゴ園を借り受けて、シードルのためのリンゴ栽培を始めた。シードルの醸造はスタートしているが、残念ながらいまのところ一般販売には至っていない。
そして、ここで紹介するのは、同時に手がけているワインだ。ここで紹介するのは、ピノ・グリのオレンジワイン。いわゆる自然派だ。完熟したピノ・グリを1/3ほど破砕、除梗せずタンクで約12か月に渡りマセラシオン(果皮漬込)発酵し、ワインを搾ってさらに3か月の樽熟成期間を経た後、瓶詰めした。ブドウの梗由来の薬草のような渋みと、チョコレートのような甘い香り、蒸留酒のような熟成香が重なり、かなり独特なワインに仕上がっている。私は東京の自然派の店に持ち込んでテイスティングしたのだが、普段から自然派を飲み慣れている店の女性スタッフは、メッチャおいしいと評価した。

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参考価格 ¥4,620

111ヴィンヤード/キュベ鼓動 朱
次世代の塩尻ワインを担う

111ヴィンヤードは、ベリービーズの醸造責任者である川島和叔さんの個人的なワイン造りである。彼もまた塩尻ワイン大学の1期生として、1からブドウ栽培、ワイン醸造を学んだ人だが、ワイン大学入学わずか1年で、近所の畑を借り受け、メルローとシャルドネ100本を植えたという。さらに、高齢の栽培農家から畑を引き継ぎ、畑を増やしていった。メインの畑は洗馬地区にあり、ヴォータノワインの畑の一段上の地層で、かつて海底にあった地層のためミネラル分が豊富な土壌であるという。奈良井川が形成した扇状地の扇頂にあり、砂利の層に火山灰が堆積している土壌で非常に水はけがよい土地だ。標高750m、昼夜の寒暖差が大きく、ブドウの着色がよく糖度も十分上がり、酸も残る、条件のいい栽培ができている。現在はメルロー、シャルドネ、カベルネフラン、カベルネ・ソーヴィニヨンは垣根、コンコード、ナイヤガラを棚で栽培。収穫したブドウはベリービーズで委託醸造を行っており、醸造免許は取得していないが、実質、自分の手で全てやっている形だ。
「キュベ鼓動」は、洗馬(せば)の自社畑で収穫されたブドウのみを使用し、納得のいく年にだけ造られる赤ワイン。この「朱」は、カベルネ・ソーヴィニヨン58%、メルロー42%、フレンチオーク 新樽15ヶ⽉熟成。凝縮感があり、ポテンシャルを感じるワインだ。

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参考価格 ¥4,620 (2024)

yoshie vineyard/ヴィオニエ
塩尻ワインの新たなチャレンジ

111ワイナリーとともに、まだ酒造免許取得には至ってないが、意欲的な生産者として注目されているのがこちら。片丘地区に農園を拓いた吉江豊さんだ。この人も塩尻ワイン大学1期生。東京で家具職人として働いていたが、地元で何かやろうとUターンし、ブドウ栽培とワイン造りを決意した。彼の畑は、丘の上幸西ワイナリーの近く、片丘の街道沿いの美しい畑だ。メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、プティ・ヴェルド、ソーヴィニヨン・ブランとともに、マルスランとヴィオニエを栽培するほか、1年を通して収入を確保するために、生食用ブドウや一部、野菜なども育てている。そして、栽培の傍ら、長野県ワイン生産アカデミー、塩尻ワイン大学等で学び、サンサンワイナリーで醸造の実務経験も積んできた。
彼のワイン造りは、ブドウの魅力を最大限に引き出すこと。そのためにはまず、よいブドウを作ること。時間のある限り、畑に通うという。また栽培する品種にも特徴がある。ヴィオニエとマルスラン。どちらも暖かい南仏の品種である。温暖化の影響を考えた上での選択だ。特にヴィオニエには、栽培するワイナリーが少なく、塩尻でも独自の取り組みとなっている。醸造においては、可能な限り自然な方法で、補酸や補糖は行わず、ブドウ本来の風味を生かすことを重視している。
看板ワインのヴィオニエは、年ごとに変化しているが、2025は、ヴィオニエ93%、プティマンサン7%、ステンレスタンクで約12°Cの低温発酵。発酵後4ヶ月ステンレスタンク熟成。柑橘系の香りとヴィオニエらしいほのかな苦味が感じられる。

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参考価格 ¥3,410 (2025)