ストーリーのあるワインと暮らし

Wine & Story

イタリアワイン・ランキング ガンベロ・ロッソが選んだ
イタリアのベストワイン 2023

(2022.10.31)
イタリアワインのガイドブック、ガンベロ・ロッソ(Gambero Rosso)の「ヴィーニ・ディ・イタリア(Vini d’Italia) 2023年版」の特別表彰ワインを紹介する。ガンベロ・ロッソは、イタリア全土のワインを厳格に格付けして、その評価をグラスの数で示している。その最高評価トレ・ビッキエーリ(3グラス)の中から、各ジャンルの最上位が特別表彰を受ける。特別表彰ワインは、現時点のイタリアのトップワインであると同時に、ガンベロ・ロッソのメッセージでもある。いま、ワインはどうあるべきかが、その方向性が示されている。

 



特別表彰ワインは、日本では2022年10月25日に行われた「ガンベロ・ロッソ・トレ・ビッキエーリ2023」の特別賞セミナーで紹介された。登壇者は、ガンベロ・ロッソCEOのルイジ・サレルノさんと、ワインガイド日本版翻訳者の宮島勲さん。編集長マルコ・サベリコさんはコロナで来日できなかった。

スパークリングワイン・オブ・ザ・イヤー
フランチャコルタ パ・ドセ・パロゼ 2016 / モスネル
フランチャコルタは、昨年の生産本数が2000万本。イタリア随一のスパークリングワインの産地である。モスネルは、1968年のフランチャコルタDOCの立ち上げに参加した11軒のワイナリーのひとつ。歴史ある農園で、カ・デル・ボスコやベッラヴィスタに次ぐ、準大手の位置付けだ。スパークリングワイン・オブ・ザ・イヤーに選ばれたワインは、いま流行りのノン・ドサージュ(リキュール添加なし)タイプで、人気上昇中のロゼ。果実味のあるフレッシュなタイプで酸が柔らかい。スタイリッシュなフランチャコルタの最新のトレンドを体現している。

Franciacorta Pas Dosé Parosè 2016 / Mosnel
※プリムール段階での評価、発表のため、画像のヴィンテージが異なる場合があります。

コストパフォーマンス・ワイン・オブ・ザ・イヤー
アプルッツォ・ペコリーノ 2021 / テヌータ・テッラヴィーヴァ
これは、アプルッツォ州のワイン。アプルッツォは歴史的に安ワインの産地とされてきたが、ブドウ栽培の条件がよく、いまや質の高いワインも数多く造られている。ワイナリーはアブルッツォのビオを語る時に外せない存在。このワインは、土着品種の見直し機運の中で評価を高めたペコリーノという品種で、グレコ・ディ・トゥッフォやヴェルナッチャ・ディ・サンジミニャーノと同様に「白ワインの衣を着た赤ワイン」と言われる力強いワインだ。華やかさはないが、旨みと凝縮感がある。チキンのローストなど、濃い味に負けない白ワイン。


Abruzzo Pecorino 2021 /Tenuta Terraviva
社会的連帯プロジェクト・アワード
ゴルゴーナ・ビアンコ 2021 / フレスコバルディ
ゴルゴーナとは、島の名前。それも、地中海に浮かぶ囚人の島である。この島は殺人のような重罪の服役囚が、刑期の最後に職業訓練などで社会復帰に備える場所だという。自由に行動できる開放型施設で、島では自給自足のような形で、牧畜やワイン造りを行っている。イタリアでは、企業の責任として、社会貢献が求められるが、フィレンツェのワイン貴族、フレスコパルディは、この島のワイン造りをサポートしている。有機栽培のサンジョヴェーゼとヴェルメンティーノが栽培され、テラコッタの壺を使い、高品質のワイン造りを行っている。ワインは果実の熟れた感じがあり、ボリューム感のあるワイン。囚人が造った高級ワインである。

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Gorgona Bianco 2021 / Frescobaldi

白ワイン・オブ・ザ・イヤー
ヴェルディッキオ・デイ・カステッリ・ディ・イエージ・クラシコ・サン・パオロ・リゼルヴァ 2019 / ピエヴァルタ
フランチャコルタのバローネ・ピッツィーニが、2002年にマルケで創業したワイナリーがピエヴァルタ。カステッリ・デイ・イエージの丘に26ヘクタールほどのブドウ畑を持ち、ヴェルディッキオを2種の異なった土壌で栽培している。ヴェルディッキオはマルケの土着品種で、昔からアンフォーラ型やフィッシュボトルで安ワインとして流通していたが、その潜在力は高く、きちんと造ったワインは、トレ・ビッキエーリの常連になっている。バローネ・ピッツィーニも、そこに注目して進出した。ブドウ栽培はビオディナミを取り入れ、収穫は全て手摘み、農薬や化学肥料を使わない。バランスがよく、素性のよさを感じるワインだが、値段も手頃。

Castelli di Jesi Verdicchio Classico San Paolo

Castelli di Jesi Verdicchio Classico San Paolo Riserva 2019 / Pievalta

ロゼワイン・オブ・ザ・イヤー
リヴィエラ・デル・ガルダ・クラシコ・ヴァルテネージ・キアレット・レッテラ・セー 2020 / パジーニ・サン・ジョヴァンニ
ロゼワイン・オブ・ザ・イヤーはここ6年の表彰だという。もともと、ワインジャーナリズムは、ロゼのクオリティワインを認めてこなかった。ガンベロ・ロッソも同様の立場だったが、いまは違う。このワインはガルダ湖のワイン。「キアレット」という名前だが、このキアレット、ヴェネト州一帯で、ロゼやうすい赤、またその発泡までを総称しており、捉えどころがないワインだった。それを、産地全体でキアレットのブランディングに取り組み、プロヴァンス系のエレガントなロゼワインを目指すことにしたという。そのスタイルが形になったのがこのワインだ。かつては、私自身も、ロゼには見向きもしなかったが、いまは好んで飲んでいる。例えば、魚介料理でも真性ブイヤベースは魚を素揚げしてから調理しており、そういうものには、白にはないタンニンがちょっと欲しいのだ。プロヴァンスのロゼもそうして飲まれており、現地にはロゼのグランクリュも存在する。

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Riviera del Garda Classico Valtènesi Chiaretto Lettera C 2020 / Pasini San Giovanni

ブドウ栽培家・オブ・ザ・イヤー
ロッセーゼ・ディ・ドルチェアクア・スペリオーレ・ポソー 2020 / マッカリオ・ドリンゲンベルグ
リグーリア州のフランスよりの海沿いの地域でワイン造りを行う老舗ワイナリー。そのジョヴァンナ・マッカリオさんのブドウ栽培が評価された。彼女が取り組んでいるのが、ロッセーゼという超マイナーな土着品種。そのワインは、力強さがなく、スパイシーだが、タンニンが柔らかいエレガント系の赤ワインになる。昔だったら、ガンベロ・ロッソは一瞥さえしなかったと思われるが、今は違うようだ。畑は、急峻な傾斜地にあり、機械が一切使えないため、作業はすべて手作業。認証は取っていないが、オーガニックの畑で、ロッセーゼのみを栽培している。ポソーとは、単一畑のクリュ名で、ロッセーゼの樹齢は60年。海からの風が当たる南向きの厳しい傾斜地で、いわゆるリグーリアらしい環境でのブドウ栽培である。

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Rossese di Dolceaqua Superiore Posau / Maccario Dringenber

赤ワイン・オブ・ザ・イヤー
キャンティ・クラシコ・ペトリニャーノ 2016 / ディエーヴォレ
ディエヴォレは、キャンティ・クラシコの世界では名の知れたブランド。オーナーは、アルゼンチンのブルゲローニ氏で、モンタルチーノに二つ、キャンティに二つ、ボルゲリにも二つワイナリーを所有するワイン長者だ。イタリアのワイナリーは、その潜在力のわりに、まだまだ割安らしく、多国籍企業グループによる買収は、ますます活性化しているという。最近では、モンタルチーノの名門ビオンディ・サンティやキャンティ・クラシコのエポックメイキングなブランドであるイゾーレ・エ・オレーナも買収された。2019年はキャンティの作柄がいい年。ちょっと前なら、リゼルヴァでないキャンティ・クラシコが、赤ワインのトップとして評価されることはなかったと思うが、ガンベロ・ロッソもパワフルで重厚なワインから、食事に合うバランスのいいワインに、志向が変わってきたようだ。

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Chianti Classico Petrignano 2019 / Dievole

ワイナリー・オブ・ザ・イヤー
ヴァルポリチェッラ・クラシコ・スペリオーレ・オニサンティ 2020 / ベルターニ
ワイナリー・オブ・ザ・イヤーには、古典的アマローネの名門、ベルターニが選ばれた。ベルターニはスイスの製薬会社の傘下にあり、モンタルチーノのヴァル・ディ・スーガと同じグループ。今回のベルターニの代表ワインは、アマローネでなく、ヴァルポリチェッラが選ばれた。アマローネは、イタリアの濃くて甘いワインの代表で、いまブームの最中にあり、品薄な状態だ。なのに、なぜ、ヴァルポリチェッラなのか。ヴァルポリチェッラは、昔はキャンティと並ぶ、定番ワインだったが、ここ20年すっかり影が薄くなった印象だ。そうした食事と共に楽しむ普通の伝統ワインを復活させたいというのが、今のガンベロ・ロッソのメッセージだ。

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Valpolicella Classico Superiore Ognissanti 2020 / Bertani

伸び盛りのワイナリー・オブ・ザ・イヤー
バルバレスコ・ローレン 2019 / ロダーリ
ロダーリは新進気鋭のワイナリーの代表として選ばれた。1939年からトレイゾ村にあるワイナリーだというが、知らなかった。手元にある2019年版のガンベロ・ロッソにも載ってない。突然、評価を上げたワイナリーなのだろう。バローロ、バルバレスコは、バローロボーイズなど、スター生産者がキラ星のごとく存在する。彼らは、もともとタンニンが和らいで飲み頃になるのに時間がかかったワインを、バリック熟成などのテクニックで早く飲めるようにして成功を納めたが、今は産地の事情も変わってきたという。最近は、温暖化の影響でフェノール類が十分に成熟するようになり、ワイン造りも変わってきた。新しい世代は、そうした変化への対応力もあるようだ。このバルバレスコは、シルキータッチでタンニンが柔らかい。私は好感をもった。

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Barbaresco Lorens 2019 / Lodali

協同組合ワイナリー・オブ・ザ・イヤー
サリーチェ・サレンティイーノ・セルバロッサ 2019 / カンティーネ・ドゥエ・パルメ
協同組合NO.1は、カンティーネ・ドゥエ・パルメ。1989年に400軒のブドウ栽培農家によって設立されたプーリア州の生産者協同組合。協同組合によるワインというと、大量生産で品質が低いと思われがちだが、そうではない。イタリアには各地に品質指向の協同組合がある。代表的なところでは、プロデュットーリ・バルバレスコや、アルト・アディジェのトラミンなど。カンティーネ・ドゥエ・パルメも含めて、彼らは、ガンベロ・ロッソで、常に高い評価を得るワイナリーである。セルバロッサは、フラッグシップワイン。濃厚なサリーチェ・サレンティーノで、太陽に恵まれた甘いトーン。南のワインのニュアンスが出ている。赤土の豊穣な大地から生まれた、色も濃く力強いワイン。

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Salice Salentino Riserva Selvarossa 2019 / Cantine Due Palme

持続可能なブドウ栽培アワード
サグランティーノ・ディ・モンテファルコ 25 アンニ 2014 2018 / アルナルド・カプライ
サスティナブルのアワードは、およそ10年前からあるそうだ。サスティナブルというと、ビオと混同する人か多いが、全く関係ない。持続可能性という企業の社会的責任の問題であり、ヨーロッパでは企業姿勢を問われるテーマである。ワイン造りで言えば、不法移民など違法な労働がないか、環境問題やリサイクルに積極的かなどだが、その程度の取り組みで賞をとれるはずもなく、地域でなんらかのプロジェクトを推進しているのだろう。この賞は、ワインの味とは関係ないが、このワインは25年変わらず、サグランティーノのトップワインである。サグランティーノは、世界一ポリフェノールの含有量が多いワインとして一時もてはやされた。世界一濃い品種で、色濃く、パワフルで、アルコールが強く、タンニンも強い。すべてに過剰な品種で、昔は甘口に造られていたものを、このワイナリーが現代の辛口ワインにまとめ直した。一時人気を落とした時期もあるが、ブレずに個性的なワインで通してきた。今は、ミシェル・ローランがコンサルタントとして、暴れ馬をエレガント方向にまとめている。

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Sagrantino Di Montefalco 25 Anni 2018 / Arnaldo Caprai

甘口ワイン・オブ・ザ・イヤー
オルヴィエート・クラシコ・スペリオーレ・ムッファ・ノービレ・プーリチューレ・ノーブレ 2020 / デクニャーノ・デイ・バルビ
オルヴィエートといえば、ウンブリア州にある白ワインの産地である。スタンダードクラスの白ワインが多く、高級ワイン産地としての評価はあまりないが、実は、昔は、貴腐ワインの産地として有名だったらしい。ほとんど市場に出回らないので、私も知らなかったが、オルヴィエートの甘口ワインは、長く、ローマ法王庁に納められており、その産地として有名であったという。この地域の白ブドウはグレケットとトレビアーノ中心。それを陰干しして、小樽熟成する。このワインは、甘口なのに、フレッシュで、酸がしっかりしていて飲みやすい。スッキリしているなと思ったら、グレケットにソーヴィニヨンを合わせているという。

Orvieto-Classico-Superiore-Muffa-Nobile-Pourriture-Noble-2020

Orvieto Classico Superiore Muffa Nobile Pourriture Noble 2020 / Decugnano dei Barbi