イタリアワイン・ランキング キャンティ・クラシコの実力を知る
レジェンドワイン10本
(2015.03.01)
誰もが認めるイタリアワインの美質のひとつに、コスト・パフォーマンスのよさがある。安いワインにもいいのがあるということだが、卓越したワインが安く飲めるのも事実。イタリアではトップクオリティのワインが、3000円から手に入る。その代表がキャンティ・クラシコだ。現代のキャンティの水準を語る10本を選んだ。
キャンティ・クラシコとは何か
キャンティには600年の歴史があり、19世紀には世界的なメジャーワインとなったが、量から質への転換が遅れ、市場で評価を落とした時期もあった。サンジョヴェーゼに白ブドウを混ぜるという19世紀の法律に縛られ、クオリティ志向のワイン造りができないことが問題だった。その時期、意欲的な生産者はキャンティに見切りを付けて、テーブルワインの格付けでワインを造った。それが、1980年代に台頭したスーパータスカンである。
そうして、キャンティはしばらく負のイメージを引きずっていたが、この20年で大きな変貌を遂げた。法律の改正と改革の機運の高まりによって、続々とハイクオリティのキャンティが生み出された。ここでは、キャンティ・クラシコ・ルネッサンスの流れの中で、名声を高めたエポックメイキングなワインを紹介する。
マルケージ・アンティノーリ/キャンティ・クラシコ・リゼルヴァ・バディア・ア・パッシニャーノ
改革者アンティノーリのキャンティ
当然、アンティノーリは、主力のキャンティにもいち早く手を付けている。70年代半ばには白ブドウの混醸を中止、サンジョヴェーゼ×カナイオーロのワインから始めて、サンジョヴェーゼ100%、カベルネとのブレンドなど、数種の新しいワインを仕上げている。このキャンティ・クラシコは、「ティーニャネッロ」「ソライア(Solaia)」と同じサン・カッシャーノ・イン・ヴァル・ディ・ペーサ地区にあるバディア・ア・パッシニャーノ農園で造られるサンジョヴェーゼ100%のワインだ。香り高いキャンティ・クラシコの美質が詰まっている。
ファットリア・ディ・フェルシナ/キャンティ・クラシコ・リゼルヴァ・ランチア
単一畑のキャンティ・クラッシコ
フェルシナのあるカステルヌオーヴォ・ベラルデンガという地区は、キャンティ・クラシコエリアの南端にあたり、石の中に粘土質が混ざるガレストロ・アルベレーゼから、粘土質のクレータ・シネーゼという地質に変わってくるところ。従来のキャンティ・クラシコよりミネラルに富み、ブルネッロのような濃縮感あるワインに仕上がっている。このワイナリーには、同じくサンジョヴェーゼ100%のスーパータスカンの銘品、「フォンタローロ(Fontalloro)」もある。
テヌータ・フォントーディ/キャンティ・クラシコ・リゼルヴァ・ヴィーニャ・デル・ソルヴォ
新興ワイナリーの情熱の結晶
フォントーディは、キャンティ・クラシコエリアのど真ん中、グレーヴェ・イン・キャンティのエリアのパンツァーノの村の外れにある。その下に広がる畑は、コンカ・ドーロ(黄金の貝)という呼び名で、昔から知られていた畑である。南向きで、日照のいい斜面で、貝のように微妙に湾曲したその傾斜地に由来した名前である。標高470メートルと、キャンティ・クラシコエリアでも高いところで、ガレストロ土壌でやせており、キャンティらしさが十分に表現されたワインである。
カステッロ・ディ・フォンテルートリ/キャンティ・クラシコ・カステッロ・ディ・フォンテルートリ
ボルドースタイルへの転換
フォンテルートリは、カステッリーナ・イン・キャンティ地区のいろんな場所に少しずつ持っていた畑を4カ所に集約。畑ごとのブドウの性格を分析し、それらを混ぜて過不足を補いあうことで、新しいふたつのワインを造り上げた。サンジョヴェーゼ100%の「キャンティ・クラシコ・フォンテルートリ」と、カベルネ・ソーヴィニヨンを10%ブレンドしたリゼルヴァの「カステッロ・ディ・フォンテルートリ」である。
フランチェスコ・マッツェイは、「キャンティはこの20年、カベルネやメルローを試したり、ブルゴーニュばりにクリュのワイン造りを試したりしてきたが、やはりこの地域のアイデンティティであるサンジョヴェーゼ主体、キャンティ・クラシコ主体に戻っていく」と語っている。
カステッロ・ディ・アーマ/キャンティ・クラシコ・カステッロ・ディ・アーマ
クリュワインからボルドー式へ
アーマでは、80年代には「ベッラヴィスタ」「カズッチャ」「サン・ロレンツォ」「ベルティンガ」という4つのクリュワインを造っていたが、90年代になって、畑全体の質が上がってきたことから、ふたつのワインをやめ、「ベッラヴィスタ」「カズッチャ」も生産年と本数を限定して、「カステッロ・ディ・アーマ」というグランヴァンの育成に集中することにした。畑による個性を売るのではなく、カステッロ・ディ・アーマというブランドをボルドーのシャトーもののように位置づけ、ハイクオリティである程度量のあるワインとしてリリースすることにした。その看板の「カステッロ・ディ・アーマ」は、サンジョヴェーゼ80%に、カナイオーロ、マルヴァジア・ネーラ、メルローなどのブレンド。濃く、力強く、長熟型ながら、エレガントさも感じるワインとなっている。尚、このワイナリーは、外来種であるメルローの銘品「ラパッリータ(L’Apparita)」でも名声を得ている。
バローネ・リカーソリ/キャンティ・クラシコ・カステッロ・ディ・ブローリオ
復活した名門
そのワイナリーは1993年にリカーソリ家に経営権が戻り、新生ブローリオとして再出発した。この復活劇の立て役者は、32代目の当主フランチェスコ・リカーソリ。彼は長年コマーシャル・フォトグラファーとして活動していたが、1991年に残っていた農園の管理に入り、惨状を目の当たりにして、一族の名誉のためにワイナリーの買い戻しを決断。そして、コンサルタントにエノロゴのカルロ・フェッリーニを起用し、事業を立て直した。彼らの新しいキャンティは「カステッロ・ディ・ブローリオ」と名乗り、1997年ヴィンテージからトレ・ビッキエーリワインとなり、見事に復活を果たしている。セパージュは、サンジョヴェーゼ90%、カベルネ、メルローあわせて10%。ガイオーレ・イン・キャンティの典型的な特徴を持ちながらもモダンなワインとなっている。
サン・ジュスト・ア・レンテンナーノ/キャンティ・クラシコ・リゼルヴァ・レ・バロンコーレ
土に生きるワイン貴族
このワイナリーのキャンティは、サンジョヴェーゼとカナイオーロのブレンド。自らメルローを栽培しながらも、カベルネやメルローなど外来種のブレンドには批判的である。キャンティは1984年以来、カベルネやメルローなど外来種とのブレンドが認められ、インターナショナルな味わいを生むとしてトレンドにもなっているが、反対意見もある。このワイナリーも、外来種の入ったキャンティでは土地のティピカルな表現ができないとして、反対の立場。あくまで土地の個性にこだわる姿勢を見せている。
カステッラーレ・ディ・カステッリーナ/キャンティ・クラシコ・リゼルヴァ・ヴィーニャ・イル・ポッジーアーレ
クラシカル・エレガンス
このワイナリーは、地元の5軒の農家が始めたプロジェクトだが、そこにパオロ・パネライという雑誌編集者がある哲学を持ち込み飛躍を遂げた。ワイン造りはミラノ大学やフィレンツェ大学との提携により最新の技術が導入されているが、キャンティの伝統にかなったやり方を基本とする。ブドウ品種も土着のものを使い、サンジョヴェーゼの原種として知られる小粒で濃縮感の出るサンジョヴェートに、カナイオーロとチリエジョーロなどをブレンド。自然との共生を掲げ、あらゆる浸透性農薬の使用を排除した無農薬でのブドウ栽培を行っている。毎年変わるエチケットの小鳥も実は絶滅危惧種であり、自然との共生を訴えるものだという。キャンティの良心のようなワインである。
ラ・マッサ/キャンティ・クラシコ・ジョルジョ・プリモ
味わいのヴァラエティ
「ジョルジョ・プリモ」はファースト・ヴィンテージからトレ・ビッキエーリを取得して評判となり、私もメルローとのブレンドのエレガントさに感銘を受けたものだが、このワイン、いつのまにかボルドータイプのワインに変質してしまった。聞けば2002年ヴィンテージを最後にキャンティ・クラシコであることをやめ、翌ヴィンテージからカベルネ60%、メルロー35%、プチヴェルド5%のボルドータイプになったという。本来、このランキングに挙げるべきでないかもしれないが、9年連続トレ・ビッキエーリを獲得したエポックメイキングなワインでもあり、あえて選んだ。記憶にとどめたいワインである。
レ・コルティ/キャンティ・クラシコ・ドン・トンマーゾ
名門貴族のモダンなキャンティ
元々、サン・カッシャーノ・イン・ヴァル・ディ・ペーサ地区の銘醸地、結果はすぐに現れた。彼らの「キャンティ・クラシコ・ドン・トッマーゾ」 は、サンジョヴェーゼ90%、メルロー10%のエレガントなワインで、1999年ヴィンテージでついにトレ・ビッキエーリの仲間入りを果たした。
これまで述べたように、キャンティ・クラシコは劇的に品質が上がってきた。イタリアでは、ワインは産地よりも造り手で決まるというのが常識だが、わずか数年で見違えるようなワインができる、この地域の潜在力は特筆すべきである。キャンティ・クラシコは、その上に、畑ごとのテロワール、さらにはセパージュなどワイナリーの考え方との組み合わせで、多彩なワインが生み出されている。そのヴァリエーションを楽しむのがキャンティ・クラシコの魅力である。