ストーリーのあるワインと暮らし

Wine & Story

日本ワイン・塩尻特集 vol.1 日本を代表する銘醸地
塩尻を知るワイン10本

(5時間)
IMG_0986のコピー
塩尻のクオリティと多様性を示すワインを有力ワイナリーから10本セレクトした。代表品種メルローのワイン。塩尻の伝統品種で造られたワイン。さらに、近年の新しいトライアルによって生み出されたワイン。これらをひと通り飲んでいけば、いまの塩尻ワインの水準と幅が理解できるはずだ。
 
塩尻のワインとは?
塩尻では、1911年に林農園(五一ワイン)がブドウ栽培をはじめ、桔梗ヶ原を中心にワインづくりを行ってきた。その後、アルプス、井筒ワイン、信濃ワインにサントリー、メルシャンも参入。国内有数のワイン産地として発展した。新たなワイナリーが加わったのは2000年代から、2010年代後半になると小規模な生産者が次々と参入した。そこには、塩尻ワイン大学や、ワイン特区といった行政の後押しが力になっている。

そして、ワインだが、当初はコンコードやマスカットベリーAなどの日本の固有品種に取り組み、甘味ワインの生産から徐々に辛口のワインへと転換した。1951年にはメルローの栽培がスタート、国際品種も試されるようになった。メルローは当初、寒すぎる気候に苦しんだが、温暖化の影響で質の高いブドウが穫れるようになり、いまや山梨を超える産地との評価もある。現在はメルローを規定種目として、各ワイナリーとも多品種体制を志向している。

塩尻ワインをワイナリーで捉えると、五一、アルプス、井筒、信濃の老舗4社は安定した品質の塩尻の代表銘柄。サントリー、メルシャンの品質は言わずもがな。それに、メルシャンの醸造長から転出したドメーヌ・コーセイや、入手困難で伝説となっている城戸ワインなどの注目のワイナリーがある。さらに、塩尻ワイン大学出身者などの小規模ワイナリーが続々参入中という図式だ。

では、その塩尻ワイン、どこで買えばいいのか? リアル店舗であれば、まずは塩尻市広丘の「リカーハウスながはら」、あとは塩尻駅前の土産物店になるだろうか。通販であれば長野ワインに強い「ワインショップfun」の品揃えがダントツだ。もちろん、各ワイナリーの通販サイトでも購入できる。あと、塩尻初心者には、塩尻市のふるさと納税もおすすめである。それなりに有名どころがラインナップされている。それでは、塩尻のクオリティと多様性を示すワインを紹介していこう。今回は、代表的なワインをセレクトしたが、回をあらためて、新興のワイナリーの取り組みについても紹介せさていただく予定だ。

シャトー・メルシャン/桔梗ヶ原メルロー
塩尻のフラッグシップ
塩尻のワインを語るとき、真っ先にあげねばならぬ1本である。メルシャンでは1976年から桔梗ヶ原地区でメルローの栽培に挑戦し、1989年、初リリースした『シャトー・メルシャン 信州桔梗ヶ原メルロー1985』がリュブリアーナ国際ワインコンクールでグランドゴールドメダルを受賞。以来、塩尻、桔梗ヶ原は、日本を代表する銘醸地となった。標高700m、火山灰土壌の桔梗ヶ原地区の垣根栽培のメルローである。メルローというと、ボルドーに代表されるようにブレンドされることが多く、味わいのイメージがつきにくいが、桔梗が原のメルローは単一品種で瓶詰めされる。メルシャンでは、ワイン造りのフィロソフィーとして、「日本ならではのフィネス&エレガンス」をテーマにしており、調和のとれた上品な味わいのメルローを完成させた。このワインは、塩尻のメルローの到達点であり、日本ワインの最高峰のひとつであるだろう。

Wine & Story

参考価格 ¥14,000(2018)

Domaine KOSEI/片丘メルロー アメリカンオーク 
塩尻メルローの新たなスター
ドメーヌ・コーセイの味村興成さんは、シャトー・メルシャンの醸造長を務めた人だ。『シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原メルロー』にも長年かかわった熟達の醸造家である。彼の本拠地は勝沼だったが、自身のワイン造りは、実績のあるメルローで、いいメルローは塩尻ということで、塩尻にワイナリーを立ち上げた。当初は桔梗ヶ原で畑を探したが最終的に片丘地区に畑を得た。塩尻といえば桔梗ヶ原だが、いま産地では新たなエリアに注目が集まっている。片丘がその代表で、柿沢、北小野、洗馬、奈良井川といったところ。片丘は標高が少し高く、山なみに沿って風が通るエリアである。コーセイは、この片丘の自社畑を中心に据え、醸造面での様々なトライアルを重ねている。オシリスという最新の除梗機を導入、雑味のないワインを実現。カントン社のアメリカンオーク樽を使って新たな味わいを見出した。2019年からの醸造でまだ数年分のワインしかリリースしていないが、すでに品質は塩尻メルローのトップクラス。塩尻の新しい代表ワインである。

P5220406_fのコピー

参考価格 ¥4,730(2022)

サントリ-/フロムフア-ム 塩尻 メルロ ロゼ
塩尻メルローの新たな可能性
塩尻のワイナリーにとって、メルローのワイン造りは基本である。当然サントリーにもハイクオリティなワインはあるが、私はロゼに、メルローの新たな可能性を感じている。日本におけるロゼは、いまだに甘口の土産物ワインが流通しているように、品質的な評価は低い。だがフランスでは、実はロゼは白より売れており、イタリアでもロゼの売上は急速に伸びている。いいロゼワインは、世界的なトレンドなのである。そのトレンドを踏まえ、さらに塩尻のメルローの新たな表現として、高級ロゼを手がけるとは、さすがはサントリーである。このロゼは、高級ロゼの造り方であるセニエ法とメルローを絞った果汁を別々にワインにして、ブレンドするという凝った造りをしている。すでに2019年の時点で、日本ワインコンクールの部門最高賞を獲得しており、ロゼのパイオニアである。ちなみに塩尻メルローのロゼは、メルシャン、ドメーヌ・コーセイにもいいものがあることを付しておきたい。

Wine & Story

参考価格 ¥3,300(2023)

信濃ワイン/スーパーデラックス 白 竜眼
磨き上げた国産品種のワイン造り

ここからは、老舗ワイナリーのワインと共に塩尻の多様性について解説していきたい。まずとりあげたいのは「竜眼」という品種である。明治時代に中国から長野県に導入された品種で「善光寺ぶどう」とも呼ばれている。竜眼は山梨の「甲州」に似た遺伝的特徴を持ち、日本に深く根付いた白ワイン品種と言える。甲州といえば、日本ワインの代表であり、優しい味わい、和食に合うと表現されるが、世界のワインに馴染んだワイン通には、逆に水っぽくて、凡庸、冴えがないと嫌われるケースも多い。この竜眼は、甲州と比べて、酸がスッキリしていて、妙な甘味がなくて好感が持てる。いまは甲州にもいいものがあるが、竜眼の方がより安心して飲めるのではないだろうか。
信濃ワインは1916年創業、桔梗ヶ原の一画にあり、古びた樽が並んだ貯蔵庫が見学できるクラシックなワイナリーである。このワインは、1990年代を通じて、信濃ワインが国際コンクールに出品してきた、かつての代表ワイン。当時、リュブリアーナ国際ワインコンクールで銅賞、優秀賞を繰り返し受賞している。

Wine & Story

参考価格 ¥2,790(2023)

井筒ワイン/マスカット・ベリーA
塩尻ワインのコアな実力

井筒ワインは1933年創業、コンコードやナイヤガラの生産から始めたが、どうせやるなら世界的なワインをつくろうと1962年からメルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンなどの栽培に挑んできたという。老舗4社の中でも、国際品種のワイン造りに実績があり、コンクールへの出品も熱心な品質志向のワイナリーだ。日本ワインコンクールでも、メルローは言わずもがな、カベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランが毎年、入れ替わり立ち替わり金賞を受賞している。
その井筒ワインには、もうひとつ、あえて取り上げるべきワインがある。それがこのマスカット・ベリーAだ。日本の固有品種であり、日本ワインの白の代表が甲州なら、赤の代表がマスカット・ベリーAである。井筒のマスカット・ベリーAは、その最上位に位置付けられるワインだ。日本ワインコンクールの「国内改良等品種」赤クラスの金賞の常連であり、さらにコストパフォーマンス賞の常連である。このワインこそ、和食に合うとされる柔らかい日本ワインの典型と言えるのではないか。さらに、この低廉な価格は、日本の日常の食卓にワインを根付かせようとしてきた老舗ワイナリーの歴史を物語っている。

Wine & Story

参考価格 ¥1,720(2024)

アルプスワイン/ミュゼドゥヴァン ダイナスティ 塩尻メルロー&カベルネソーヴィニョン
本格ボルドータイプへのチャレンジ
アルプスワインは、1927年創業、400軒の栽培農家と契約し、長野県内No.1の生産量を誇る老舗ワイナリーだ。2008年から「農業法人アルプスファーム」を設立し、塩尻市内の耕作放棄地を取得し、自社ブドウ園での栽培にも力を入れている。メルロー、シャルドネ、ブラッククイーン、竜眼に加え、カベルネソーヴィニヨン、カベルネフラン、ソーヴィニヨンブラン、シラー、ツバイゲルトレーベなどの多くの品種にチャレンジしている。数あるアルプスワインのラインナップの中でも、「ミュゼ・ドゥ・ヴァン」シリーズでは品質志向のワイン造りを行い、日本ワインコンクールの金賞の常連である。そして、特に力を入れているのが、カベルネソーヴィ二ヨンであるという。このワインは、奈良井川沿いに広がるアルプスファームで収穫したメルロ-70%にカベルネソーヴィニョン30%をブレンド。優しく柔らかな口当たりのメルローに、カベルネソーヴィニョンのしっかりとした骨格をプラスすることで、飲み応えのあるボルドースタイルをめざしている。日本ワインコンクールにおいて、「ミュゼ・ドゥ・ヴァン」シリーズのメルロー、カベルネ、メルロー・&カベルネは、いずれも金賞の常連になっている。

Wine & Story

参考価格 ¥4,499(2024)

林農園/エステートゴイチ シラー
老舗の新たなアプローチ

桔梗ケ原のぶどう栽培のパイオニアであり、100年の歴史を誇るワイナリーが林農園、ブランド名、五一ワインである。1911年、林 五一さんが桔梗ヶ原に入植、ブドウ、梨、リンゴなどの果樹栽培を始め、1919年からワイン専用品種の栽培にもチャレンジした。以後、試行錯誤を繰り返しながら、「高接ぎ法」や「ハヤシ・スマート方式」など、独自の栽培技術を編み出し、質の高いブドウ栽培を成し遂げた。塩尻にメルローを根付かせ、桔梗ヶ原の名を広めたのも林農園の功績であろう。現在では、よいワインはよいブドウづくりから」の考えのもと、自社農園でのブドウ作りに力を入れている。
このワインは、自社農場と契約栽培のシラーを使用し、フレンチオークの樽で熟成させたもの。2023年の日本ワインコンクールで金賞を受賞している。塩尻でもメルロー以外の品種にチャレンジする流れはあるが、林農園は昨今の温暖化を見据えてシラーに取り組んできた。シラーは南仏やスペイン、南半球で栽培される品種である。急速に進む気温上昇の中で、塩尻での新たな品種栽培の可能性を示したと言っていいだろう。ローヌのシラーは概ね濃いがこれは軽い仕上がり。塩尻の新たなトレンドになるかもしれない。

Wine & Story

参考価格 ¥3,410(2024)

Kidoワイナリー/オータムカラーズ ルージュ
伝説の塩尻ワイン
城戸ワインは入手困難なことで知られ、映画「ウスケボーイズ」にも登場する、伝説の生産者である。映画は日本の近代ワイン造りの礎となったメルシャンの浅井宇助さんの薫陶を受けた若者たちがワイン造りに挑む物語。そこで、義父の農園でワイン造りを始めるのが、城戸亜紀人さんの役回りである。城戸さんは学生時代、桔梗ヶ原メルローで国産ワインの魅力に気付き、林農園(五一ワイン)でキャリアを積んだあと、2004年に家族経営のワイナリーを立ち上げた。
ワイン造りのコンセプトは「造りたいものを造る」とし、桔梗ヶ原のブドウで感じるがままにワインを造る。それは、家族だけで管理できる少量生産であり、除草剤を使わない草生栽培であるという。それを理解してくれる消費者に届けるだけなので、売上も求めず、プロモーションもしない。それが抽選という販売方法に繋がっている。そのため、ワインは市場にほとんど流れず、抽選にもなかなか当たらないので、幻のワインとなっている。
城戸ワインは「オータムカラーズ」と「プライベートリザーブ」シリーズが中心。今回の「オータムカラーズ ルージュ2024」はメルロー 52%、マスカットベーリーA 36%、ピノノワール7%、カベルネソーヴィニヨン 2%、カベルネフラン2%、プティ・ヴェルド1%のスタンダードクラスのワイン。私の感触としては、塩尻の老舗ワイナリーと共通する柔らかいワインの印象だ。「プライベートリザーブ」は収穫量を抑えた凝縮度の高いブドウのみを使用したシリーズ。

Wine & Story

参考価格 ¥3,300(2025)

サンサンワイナリー/サンサンエステート柿沢シャルドネ ネイキッド
シャルドネも塩尻の時代
サンサンワイナリーは、イタリアンレストランの下にブドウ畑が広がる絶好のロケーション。2011年に栽培開始、2015年にワイナリーが建てられた。高齢者施設を多数展開し、塩尻駅前にもグレイスフル塩尻という施設を持つ社会福祉法人の経営である。その会社が六次産業化法に基づく事業計画の認定を受け、有休耕作地を整備してワイナリーを建てたのだ。ワイナリーの立ち上げには、マンズワインの工場長を務めた戸川英夫さんの知見が生かされた。標高840m以上の柿沢地区はブドウ栽培には標高が高すぎると思われたが、西向き斜面は常に風が抜け、質の高いシャルドネが育っている。
このワインは、柿沢のシャルドネを使用。ネイキッド(ありのまま)という言葉の通り、ありのままのシャルドネをワインにした。特殊な製法は行わず、除梗破砕後、スキンコンタクトを実施。フリーラン果汁のみをタンクへ移動しデブルバージュ後、ステンレスタンクにて発酵・熟成、もちろん、補糖、補酸なし。マロラクティク発酵を⾏わず、濾過して瓶詰め。酸が効き、スッキリ飲みやすいワインに仕上がっている。日本ワインコンクール2025で金賞を受賞

Wine & Story

参考価格 ¥2,970(2025)

KIRINOKA VINEYARDS&WINERY/ドメーヌ・キリノカ ピノ・ノワール キュヴェ 善知鳥
本物のピノ・ノワールを目指す

キリノカは実は塩尻市ではなく、辰野町小野のワイナリーである。小野は、日本海と太平洋の分水嶺である善知鳥(うとう)という峠を挟んだ塩尻市北小野の隣接地である。塩尻ワインの仲間に入れても問題ないだろう。2020年に開墾を始めたキリノカの畑は、標高850mの高地、霧訪山の南南東向きの斜面で、冷涼な気候と降雨量の少なさに加え、水はけが良いジュラ紀の海洋性堆積土壌。キリノカのオーナー、沼田 実さんが20年の調査の末にたどり着いた、ピノ・ノワールの適地であるという。
沼田さんは、ワイン業界の有名人である。ホテルやワイン輸入会社を経て、ニュージーランドでワイン造りを学び、帰国後はワインスクール講師やコンサルタントに携わってきた。塩尻ワイン大学の1期生でもある。彼の強みは、長年のワインキャリアで、世界のワインとワイン造りを熟知していることだ。誤解をおそれずにいうと、ワイン造りに参入する人の多くは、初めてのブドウ栽培、初めての醸造に手探りで取り組んでいるが、沼田さんは最初から明確なビジョンを持ち、現場の技術も身につけている。低温浸漬や超微細ミストによる湿度管理など、的確な設備投資がその例だ。また、ブルゴーニュのトップワインの味わいの基準を自分の中に持ち、その尺度で自分のワインを測っている。彼のピノノワールは、初年度リリースの『零』『壱』はクオリティ志向のワインとして造られ、13200円の値付けでリリースされた。この『キュヴェ 善知鳥 2025』は、2年目のピノノワールになるが、手摘みで収穫した後、1週間の低温浸漬、2週間の発酵、マロラクティク発酵後、フランスの新樽で約2か月間熟成させたキュヴェと、114Lの古樽で熟成させたキュヴェをブレンドした。ブドウも若く、ちょっと軽いがピノノワールらしさを感じることができる。また、同時に取り組んでいるシャルドネは『キュヴェ 白鷗 2025』が、早くも日本ワインコンクール2026で金賞を受賞した。

Wine & Story

参考価格 ¥6,600(2025)