ストーリーのあるワインと暮らし

Wine & Story

カリフォルニアのジンファンデル―5―高い賞賛を集める
ジンファンデルのレジェンドたち

(2016.05.22)

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ジンファンデルの頂点に君臨するリッジとレーヴェンスウッド。長い間、質より量といったワインに用いられてきたジンファンデルをクオリティ・ワインの域に引き上げ、さらに磨きをかけ、カリフォルニアを代表するワインにまで高めた、まさにジンファンデルのレジェンド。
レーヴェンスウッド・ワイナリー Ravenswood Winery Sonoma
ジンファンデル界のゴッドファーザー、ジョエル・ピーターソンはいまだ健在

ジンファンデルのゴッドファーザーとリスペクトされるのが、レーヴェンスウッド・ワイナリーの設立者ジョエル・ピーターソン。ジンファンデルにフォーカスを定め、ひたすらそのクオリティを高めることに取り組み、1991年にはZAP(ジンファンデルの愛好家と生産者でつくる団体)の設立に尽力し、トップも2度務めた人物。

ジョエルはベイ・エリア、ポイント・リッチモンド(ソノマからはサン・パブロ湾を挟んで直線距離で50キロメートルほど)の出身で、父は物理化学、母は化学と両親ともに研究者の家庭に育った(母親はあのマンハッタン計画に参加している)。ワインは父親のウォルターから10歳の頃より手ほどき(といってもちゃんと吐き出していたとのことだが)を受けてきた筋金入り。その当時テイスティングしていた多くはフランスやイタリア、スペインなどヨーロッパのもの、なのでジョエルは旧世界のワインにも十分に通じている。

大学を出てから数年してジョエルは、当時カリフォルニアで最上のジンファンデルの生産者のひとつだったジョセフ・スワンでキャリアを踏み出す。そして30歳を前に1976年レーヴェンスウッドを設立。327ケースからのスタートだった。

レーヴェンスウッドで忘れてならないのが、カラスを3羽組み合わせたこの印象的なトレード・マーク
レーヴェンスウッドで忘れてならないのが、カラスを3羽組み合わせたこの印象的なトレード・マーク
草木に覆われたワイナリーはまるでカラスの巣!?
草木に覆われたワイナリーはまるでカラスの巣!?

現在、レーヴェンスウッドでは30に上るワインをリリースしているが、12種類以上と半分近くを占めるジンファンデルは大きく3つのレンジに分けられる。広くカリフォルニア全域からのぶどうで生産されるのがヴィントナーズ・ブレンド・シリーズ。古木を用い、フランス産の樽100パーセントで熟成されるワインは、満足度の大きい飲み応えにもかかわらず価格は10ドル前後という素晴らしいコストパフォーマンスの赤(日本でも1,000円台で手に入る)で、ジンファンデルの単一銘柄としては米国で5本の指に入る販売量を誇る。

次にくるのが、ソノマやメンドシーノなどのカウンティ・シリーズ。地域毎の異なりが感じ取れるシリーズで、例えば2014年産メンドシーノの場合、黒い果実というよりは赤いフルーツの風味、味わいが顕著で、確かに冷涼な産地であることが納得できる。ぶどうは平均で60年ほどの樹齢のジンファンデルを用いていて、アルコールも産地によって多少異なるものの基本的に14パーセント台と低めの仕上がり。

3番目が最もグレードの高いシングル・ヴィンヤード・シリーズ。テルデスキなどの高クオリティのシングル・ヴィンヤードからのワインで、毎年6種類以上の銘柄をリリースしている。そのシングル・ヴィンヤードのなかでも最上位にランクされるのがオールド・ヒル。AVAはソノマ・ヴァレーで、ソノマの町から北へ10キロメートル弱、グレン・エレンの町にある畑。ほぼ4分の3がジンファンデルで、残りはグルナッシュ、シラー、プティ・シラー、カリニャンなど少なくとも30種以上のぶどうからつくられるこのオールド・ヒルは、ビッグなスケール感の複雑さも十分なジンファンデルで他のシングル・ヴィンヤードに較べて2倍近い価格。

フラッグシップのオールド・ヒル1999年、まだまだ若々しい風味と味わい
フラッグシップのオールド・ヒル1999年、まだまだ若々しい風味と味わい
左3本はカウンティ・シリーズ。右の2本がテルデスキとオールド・ヒルが自慢のシングル・ヴィンヤード産
左3本はカウンティ・シリーズ。右の2本がテルデスキとオールド・ヒルが自慢のシングル・ヴィンヤード産
シングル・ヴィンヤードのポスター。真ん中がオールド・ヒルのジンファンデルだが幹の太さがハンパじゃあない
シングル・ヴィンヤードのポスター。真ん中がオールド・ヒルのジンファンデルだが幹の太さがハンパじゃあない

オールド・ヒルを含め、ジョエルは、ブルゴーニュに倣ってジンファンデルにおける謂わばグラン・クリュの格付けを試みている。畑独自のキャラクターを備え、樹齢の高さや、熟成のポテンシャルなどを勘案してのセレクションで、いくつか挙げると、ソノマ・ヴァレーのモンテ・ロッソ、ベッドロック、オールド・ヒル・ランチ、それにパガニ・ランチと、ドライ・クリークのリットン・スプリングスなどのシングル・ヴィンヤードがそれに当たると考えている。

取材に訪れた翌日はキューバにジンファンデルの講演に行くと言っていたジョエル。1947年生まれのレジェンドはまだまだ元気。そしてレーヴェンスウッドのサイトは、「40年、ウチはノー・ウィンピー・ワインだぜ」で始まるのである。

ワイナリー近くのジンファンデルの畑。これから剪定をまっている
ワイナリー近くのジンファンデルの畑。これから剪定をまっている
ジンファンデル界のレジェンド、ジョエル・ピーターソン
ジンファンデル界のレジェンド、ジョエル・ピーターソン
リッジ・ヴィンヤーズ Ridge Vineyards Sonoma
ジンファンデルのみならず生み出すワインは高い賞賛を集めるワイナリー、リッジ・ヴィンヤーズ

ヒールズバーグの町から数キロメートル北にリッジのワイナリーはある。カリフォルニアのジンファンデルを語るに欠かせない、有名なガイザーヴィルとリットン・スプリングス双方のジンファンデルの畑はその周辺に広がっていて、東から西へ、ガイザーヴィル、リットン・スプリングス・イースト、リットン・スプリングス・ウエスト、それに若木の畑イースト・ベンチと連なっている。AVAとしてはガイザーヴィルがアレクサンダー・ヴァレーの西の端、同じくリットン・スプリングスがドライ・クリーク・ヴァレーの東端に位置する格好。

ガイザーヴィル、リットン・スプリングスの場合、10年ほどの若木もあるが、100年を優に超える老木も多く、それらはフィールド・ブレンド(数種類のぶどうが混植されている状態)での栽培となっている。ヴィンテージ毎に割合は若干変わるものの、両者に共通しているのは4分の3前後のジンファンデルに、プティ・シラー、カリニャン、マタロ(ムールヴェドル)のぶどう品種。そして異なるのは、ガイザーヴィルはカリニャンがプティ・シラーの2倍、逆にリットン・スプリングスにはプティ・シラーがカリニャンの2倍の広さで植えられている点。

この補助品種の割合の違いと、テロワールの異なり(ガイザーヴィルが小石混じりのローム質、方やリットン・スプリングスは砂利混じりの粘土質を主にヴァラエティに富んだ土壌)が相まって、ガイザーヴィルはしっかりした酸がありながらも柔らかな果実味で、エレガントさも感じられるスタイルに仕上がる。較べるとリットン・スプリングスはより色濃く、ワイルドな風味が横溢する力強く引き締まったタイプ。

リッジの代名詞的なジンファンデルが右のリットン・スプリングスと真ん中のガイザーヴィル。それに10年ほど前からリリースが開始されたイースト・ベンチ
リッジの代名詞的なジンファンデルが右のリットン・スプリングスと真ん中のガイザーヴィル。それに10年ほど前からリリースが開始されたイースト・ベンチ
剪定を終えたジンファンデルの古木。リットン・スプリングス畑から
剪定を終えたジンファンデルの古木。リットン・スプリングス畑から
寿命が尽きたジンファンデルの古木。幹には苔が・・・
寿命が尽きたジンファンデルの古木。幹には苔が・・・

リッジというと、ワイン・メーカーのポール・ドレーパーとパラレルで語られることが多いが、彼がワイナリーに参加したのは1969年。実はそのはるか以前、1885年までワイナリーの歴史は遡ることができ、最初はイタリア人医師がサンタ・クルーズ・マウンテンのモンテ・ベロに畑を拓いたことに始まる。ジンファンデルにフォーカスすると、1966年、ガイザーヴィル産のぶどうから初めてワインがつくられ(今年2016年には50周年を迎えた)、このすぐ後に参加したポール・ドレーパーとともにリッジの輝かしい歴史として語り継がれることになる。

ワイナリーのCEOでもあるポール・ドレーパーはイリノイ州シカゴ郊外の出身。スタンフォードで哲学を修めた彼がワインや食に惹かれていったのは、卒業した翌年に入隊した軍隊での経験が大きい。イタリアに駐留し、フェリーニのラ・ストラーダに心揺さぶられ、休日にはバイクで田舎を巡り、その風物や食、そしてワインに目覚めていく。除隊後はソルボンヌでフランス料理を学んだりもし、その延長から、アメリカに帰国した後は、ナパのシャトー・スーヴェランでキャリアの第一歩を記し、後のリッジへとつながる。

補酒をおこなう際はハーネスを装着して、ほとんどロック・クライミングの様相を呈する
補酒をおこなう際はハーネスを装着して、ほとんどロック・クライミングの様相を呈する
樽の積み方もリッジ独特、フォーク・リフトが動き回るスペースを考えると、こちらのほうが同じ広さでより多くの樽を積むことが出来、加えて地震にも強いのだとか
樽の積み方もリッジ独特、フォーク・リフトが動き回るスペースを考えると、こちらのほうが同じ広さでより多くの樽を積むことが出来、加えて地震にも強いのだとか
ぶどう果汁の成分や出来上がったワインの分析をおこなうラボ
ぶどう果汁の成分や出来上がったワインの分析をおこなうラボ

リッジを語る上でハズすことのできないエピソードがある。1976年に第1回が開かれたパリ・テイスティングがそれで、このときの順位は5位。1位のスタッグス・リープに次いでフランス勢の3シャトーが占め、その次がリッジのモンテ・ベロだった。10年後1986年のリターン・マッチでは、しかしリッジのモンテ・ベロは2位へと順位を上げる。そして2006年、30周年を記念しておこなわれた三度目のジャッジメントで、リッジの1971年産モンテ・ベロは1位の座を獲得する、それも2位に20ポイント近い圧倒的な差をつけて。

この2006年で注目されたのは熟成のポテンシャル。カリフォルニアのワインは熟成しないのではとの懸念をリッジは見事に覆した。これはひとりモンテ・ベロのみならずリッジの産するワイン全体に言えることで、もちろんジンファンデルにも当てはまり、フラッグシップのガイザーヴィル、リットン・スプリングスはともに見事に熟成する。

ビッグなワインなどとは対極の、自然体に徹したワインを生み出すリッジ。その土地や畑と対話を重ね、見えてくる個性を尊重してのワインづくりが、カリフォルニアのみならず、世界で賞賛されるクオリティに結実している。

ワイナリーはリットン・スプリングス・イーストのジンファンデルの古木に囲まれている
ワイナリーはリットン・スプリングス・イーストのジンファンデルの古木に囲まれている
リッジのマーク・ヴァーノン社長。2013年から2015年まで、ZAPのエグゼクティヴ・ディレクターを務めた
リッジのマーク・ヴァーノン社長。2013年から2015年まで、ZAPのエグゼクティヴ・ディレクターを務めた
ワイナリーのヴィジター・ルーム。平日の午前でもこの賑わい
ワイナリーのヴィジター・ルーム。平日の午前でもこの賑わい