ストーリーのあるワインと暮らし

Wine & Story

カリフォルニアのピノ・ノワール-1- ビッグなワインから
スタイリッシュなワインへ

(2015.04.15)
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カベルネ・ソーヴィニヨンと並ぶ人気の赤ワイン用ぶどう品種がピノ・ノワール、ここカリフォルニアでもブレイク中。現在ピノ・ノワールの生産量はカベルネ・ソーヴィニヨンの半分ほどだが、その伸び率は最近10年で4倍以上(カベルネ・ソーヴィニヨンはほぼ横ばい)。ここでは、ピノ・ノワール人気の秘密を6回にわたってリポート。第1回は近年人気の注目の産地、セントラル・コーストのワイナリーをピックアップ。

シャミソル・ヴィンヤーズ Chamisal Vineyards Edna Valley
エドナ・ヴァレーのパイオニア的存在のワイナリー

カリフォルニアでピノ・ノワールと言うとソノマと返ってくるのは今も昔も変わらないが、銘醸地は当然他にもあり、サンフランシスコから南に連なる大きなAVAセントラル・コーストの南部に位置するエドナ・ヴァレーもそのひとつ。1973年、この地に可能性を見出し設立されたシャミソル・ヴィンヤーズ、生み出すワインの質の高さとワイナリーの尽力があいまって10年後の1982年、エドナ・ヴァレーはAVAに認定された。

30ヘクタール以上の自社畑の大半はピノ・ノワールとシャルドネ(他に少量のシラーやピノ・グリ)が占め、太平洋から20キロメートル弱という距離のため、冷たい海風が吹き込むという環境でぶどうは育つ。さらにワイナリーはSIP(サステイナビリティ・イン・プラクティスの略)の認証を得ていて、栽培はオーガニック。

主に購入したぶどうを一切樽をかけずに仕上げるステンレス・ピノ・ノワールもあるが、ワイナリーの名声を築いてきたのは自社畑産のピノでつくられるエステート・ピノ・ノワールとカリファ(ネイティヴ・アメリカンの言葉で最上の一品の意)。28の異なる区画からのぶどう果は夜間に収穫、少量全房も用い開放のタンクで発酵。フランス産の新樽と旧樽で1年近く熟成して瓶詰め。チェリー・コーラやルート・ビア、リコリスの風味、味わいが感じられる、アメリカ人にとっては自然と身体に馴染むピノ・ノワールで、アルコールも13%台とバランスのとれた仕上がり(カリファはこのエステート・ピノ・ノワールをテイスティングし、さらに選りすぐったもの)。

樽熟庫にはヒップ・ホップが流れ、若いスタッフが多いワイナリーはワインのみならずカリフォルニアらしさを十二分に体感できる。

樽からのピノ・ノワールの試飲
樽からのピノ・ノワールの試飲
2本とも自社畑産のピノ・ノワールからつくられている
2本とも自社畑産のピノ・ノワールからつくられている
ワイナリーの設立は1973年。その創業時のぶどう樹はいまだ元気
ワイナリーの設立は1973年。その創業時のぶどう樹はいまだ元気
この開放感がカリフォルニア。冬でもテラスでワインが愉しめる
この開放感がカリフォルニア。冬でもテラスでワインが愉しめる
ワイルド・ホース・ワイナリー Wild Horse Winery Paso Robles
コスト・パフォーマンス抜群のピノ・ノワール

セントラル・コーストはサンフランシコの南から550キロメートル以上にわたって太平洋岸に連なるAVA。なかに2ダース以上のサブAVAがあり、サンタ・ルシア・ハイランズなどピノの銘醸地も多い。ワイルド・ホース・ワイナリーは南部のパソ・ロブレスAVAのテンプルトンの町にあり、ピノ・ノワールを中心にワインを生産。

ワイナリーには3つのレンジのピノ・ノワールがある。セントラル・コースト・ピノ・ノワールはサンタ・バーバラ、サン・ルイ・オビスポ、モントレーなどのぶどうからつくられる、ワイナリーで最もポピュラーな1本で、熟成にはフランス産の樽を用い、そのうち4分の1は新樽。アルコールは13%台でピノの透明感もあり、米国内で20ドルを切る価格を考えると、かなりコスト・パフォーマンスに優れたカリフォルニア・ピノ。その上がサンタ・バーバラ産ピノからつくられるアンブライドルド(裸馬の意)、最上銘柄がシュヴァル・ソヴァージュ(仏語でワイルド・ホースの意)となる。

これらを生み出すのは女性ワイン・メーカーのクリッシー・ウィットマン。女性ワイン・メーカーの草分け的存在はゼルマ・ロングあたりになると思うが、その後に続くヘレン・ターリー、ハイジ・バレットなどの活躍を見ればその能力、センスは実証済み。現在、大手のベリンジャーなどもチーフ・ワイン・メーカーには女性を起用している。

ワイナリーには人気者がいる。南米原産のリャマで、名前はフロイド(伴侶はドリー、血のつながっていない息子はサルバドール・ダリ)。伊達に飼われているわけではなく、夜間出没するコヨーテなどからワイナリーの羊たちを護る役目がある。が、それよりも訪れるヴィジターにはゆるキャラとしてたいへんな人気で、その名を冠したロゼ・フロイドもワイナリーのみで販売しているほど。

なかなか渋いエントランス・サイン
なかなか渋いエントランス・サイン
南米原産のリャマ、名前はフロイド。ちなみに伴侶はドリーで、息子はサルバドール・ダリ
南米原産のリャマ、名前はフロイド。ちなみに伴侶はドリーで、息子はサルバドール・ダリ
左端がワイルド・ホースで最もポピュラーなセントラル・コースト・ピノ・ノワール
左端がワイルド・ホースで最もポピュラーなセントラル・コースト・ピノ・ノワール
女性ワイン・メーカーのクリッシー・ウィットマン
女性ワイン・メーカーのクリッシー・ウィットマン
カーメル・ロード・ワイナリー Carmel Road Winery Monterey
最新機器とハイテク管理から生まれるしっかりした酒質のピノ

セントラル・コーストのほぼ中央に位置するモントレーAVA、そのまた中央に位置するアロヨ・セコAVAの北端にワイナリーはある。このアロヨ・セコ、西にはピノ・ノワールの産地として高評価のサンタ・ルシア・ハイランズが連なっていることからも、立地の素晴らしさは折り紙付き。午前中は霧に包まれ、午後1時を過ぎると太平洋からの冷たい海風が吹き、霧を押しやってくれるという、この地独特のクール・クライメットが、1980年代半ばよりピノ・ノワールやシャルドネに向くとして見直され、現在では好適地となっている。カーメル・ロードの畑が広がっているのは、サリナスのヴァレー・フロアと、それより90メートルから150メートル高い東向きの斜面。

ワイナリーでは3万5000個という膨大な数の樽でワインを熟成させているが、その全てにはバー・コードを打ち、管理していて、PCを見れば、ワインが詰められた日時、トップ・アップ、オリ引き等々の情報がひと目で分かるようになっている。加えてビヤード・ラインと呼ばれる特注の樽の洗浄システムも稼働。一度に8樽を最小限の水と労力で洗浄できる。収穫時期には、マンタと呼ばれるレーザーを用いた選果機で、1時間当たり10トンの処理能力でもって完璧なぶどう果を素早く選別する。畑においては、太陽光で駆動するウェザー・マシーンを用い、日照量や降雨量、土中の水分量、風速等々を観測し、潅漑の調節、その他を最適におこなっている。

産するのは樽をかけないシャルドネとリースリングの白2種にピノ・ノワール。そのピノ・ノワールはモントレー・ピノ・ノワールとパノラマ・ヴィンヤードの2種で、モントレー・ピノ・ノワールがワイナリーの主力。米国で20ドルちょっとで販売されているが、上に記したように徹底した設備のハイテク化と管理により、この価格帯より2、3ランク上のクオリティに仕上がっている。なおワイナリーはSIPの認証を受けていて、ワインのバック・ラベルにもSIPの字句がある。

ワイナリーで生むピノ・ノワールは2種。右のパノラマ・ヴィンヤードの生産量はたった125ケースしかない
ワイナリーで生むピノ・ノワールは2種。右のパノラマ・ヴィンヤードの生産量はたった125ケースしかない
日照量、降雨量、土中の水分量、風速等々を観測するウェザー・マシーン。駆動は太陽光
日照量、降雨量、土中の水分量、風速等々を観測するウェザー・マシーン。駆動は太陽光
全ての樽は、ワインが詰められた日時、トップ・アップ、オリ引き等々がバー・コードで管理される
全ての樽は、ワインが詰められた日時、トップ・アップ、オリ引き等々がバー・コードで管理される
ぶどうの選果機。レーザーを用い、1時間当たり10トンの処理能力がある。愛称はマンタ
ぶどうの選果機。レーザーを用い、1時間当たり10トンの処理能力がある。愛称はマンタ