ストーリーのあるワインと暮らし

Wine & Story

カリフォルニアのピノ・ノワール-4- こだわりのワイナリーが生む、
個性的なピノ・ノワールワイン

(2015.04.30)
単に畑をバイオダイナミックで耕作するにとどまらず、一山全部の生態系のバランスに配慮しワインを生産するワイナリーや、創業者のルーツである旧世界の手法にこだわりワインを生むワイナリー。さらに各産地のテロワールの差異を表現すべく、ピノ・ノワールだけで10銘柄前後を産するワイナリーなど、こだわりの生産者たちをご紹介。
ベンジガー・ファミリー・ワイナリー Benziger Family Winery Sonoma
ぶどう畑のみならず、ワイナリーを取りまく生態系全体に配慮

ソノマはロシアン・リヴァー・ヴァレーの山中にベンジガー・ファミリー・ワイナリーはある。訪れると素晴らしい景観が出迎えてくれるが、ワイナリーではぶどう畑だけでなく林や森など一帯を所有している。

今日、ぶどう栽培においてバイオダイナミックは流行といってもいいような様相を呈しているが、ベンジガーで初めて取り組んだのは1999年、以来16年を費やし深めてきた。その結果、畑だけでなく周囲の林や森、さらにそこに住みつく小動物から昆虫の生態にも配慮、グレン・エレンの山中にミクロ・コスモスをつくりあげてきた。

ワイナリーでは15ヘクタールのベンジガー・ランチの他にピノ・ノワールのみが植えられているベラ・ルナ(3.6ヘクタール)とデ・コエロ(9ヘクタール)、それにサニー・スロープ(13ヘクタール)の計4箇所の畑があり、これらは厳密なバイオダイナミックでの栽培となっている(米国で最初にデメテールの認証を受けたワイナリーでもある)。また、バイオダイナミック以外にも、果汁やワインの移動は重力によるグラヴィティ・フローでおこなうなど、サステイナブルの考え方は徹底している。

ワイナリーでは20銘柄の以上の赤、白のワインを生んでいるが、そのうちピノ・ノワールは半ダースほどの種類がある。上に記したベラ・ルナとデ・コエロのピノ・ノワールは自社畑産で価格も高いが、最もポピュラーなソノマ・コースト・ピノ・ノワールはバランスもよくお値打ち。そしてこのソノマ・コースト・ピノ・ノワールは購入したぶどうも用いてのワインだが、2014年のヴィンテージからはバイオダイナミックのぶどうのみでつくられるようになる。とまれ、バイオダイナミックがどうとかの小難しい理屈の前に、このような素晴らしい環境のワイナリーで育てられたぶどうからつくられたならおいしいに違いないと思わせるベンジガーのワインたちである。

畑のみならず、ワイナリーが位置する山全体の生態系に配慮してワインを生んでいる
畑のみならず、ワイナリーが位置する山全体の生態系に配慮してワインを生んでいる
牧場と見紛うほどの羊たち。全部でなんと53頭
牧場と見紛うほどの羊たち。全部でなんと53頭
右端の最もお手軽なソノマ・コースト・ピノ・ノワールも2014年ヴィンテージより完璧なバイオダイナミックでの栽培となった
右端の最もお手軽なソノマ・コースト・ピノ・ノワールも2014年ヴィンテージより完璧なバイオダイナミックでの栽培となった
バイオダイミックで用いるプレパレーション。左は500番、右は501番
バイオダイミックで用いるプレパレーション。左は500番、右は501番
パリ・ワイン・カンパニー Pali Wine Company Santa Barbara
サンタ・バーバラとソノマのテロワールにこだわり、10種類前後ものピノ・ノワールを生産

大きなAVAセントラル・コーストの南端にあるサブAVAサンタ・リタ・ヒルズの中心地がロンポク。パリ・ワイン・カンパニーのワイナリーはこのロンポクの町の北にある飛行場横にあるが、ショップを兼ねたテイスティング・ルームはロンポクの町のワイン・ゲットーにある。少量生産のワイナリーや、テイスティング・ルームを持たないワイナリーがショップを出すなどして、以前は工業団地だった場所に2ダースほども集まっているのがワイン・ゲットー。車で移動することなく、居ながらにしていくつものワイナリー巡りができてしまい、ブリュワー・クリフトン、ストルプマンなどピノ・ノワールで名を馳せるワイナリーのテイスティング・ルームもある。

パリ・ワイン・カンパニーはピノ・ノワールに惚れ込んだオーナーが2005年に設立。まだ若いワイナリーながら、生産量は25000ケースに達し、地元のサンタ・リタ・ヒルズとソノマを中心に産するピノ・ノワールは9銘柄になる(他にはシャルドネが2種類だけ)。そのピノ・ノワールで最もポピュラーな銘柄がサンタ・バーバラ産のぶどうでつくるハンティントン・ピノ・ノワール。カリフォルニアらしいふくよかで飲み応えのある赤で、ワイナリーでも人気の1本。

2007年から携わっているワイン・メーカーのアーロン・ウォーカーの一押しはフィドルスティックス・ピノ・ノワール。AVAはサンタ・リタ・ヒルズ、サンタ・イネス川沿いに位置する畑は平坦ながら、ほぼ毎年9月の後半から10月の初旬が収穫時期となるようなかなり冷涼な区域。ワインはカリフォルニアらしい凝縮感がありながらもしっかりした骨格も感じられるピノ・ノワール。ただ生産量は少なく、2012年ヴィンテージで210ケースしかない。

2ダースものワイナリーが軒を連ねるワイン・ゲットーにあるパリ・ワイン・カンパニーのテイスティング・ルーム
2ダースものワイナリーが軒を連ねるワイン・ゲットーにあるパリ・ワイン・カンパニーのテイスティング・ルーム
テイスティング・ルームの奥は樽熟庫となっている
テイスティング・ルームの奥は樽熟庫となっている
右端がワイン・メーカー一押しのフィドルスティックス・ピノ・ノワール
右端がワイン・メーカー一押しのフィドルスティックス・ピノ・ノワール
ワイン・メーカーのアーロン・ウォーカー
ワイン・メーカーのアーロン・ウォーカー
シュグ・カーネロス・エステート・ワイナリー Schug Carneros Estate Winery Sonoma
ドイツ生まれのカリフォルニア人が生む、ドイツ魂に溢れたピノ・ノワール
シュグの創業者ウォルターは、ナパのプレミアム・ワイナリーとして君臨するジョゼフ・フェルプスで設立当初の1973年からワイン・メーカーを務め、翌年には同社のフラッグシップとなるインシグニアを生み出した経歴の持ち主。もとはドイツ生まれで、ガイゼンハイムでワインづくりを学び、将来は土地の個性を備えたエレガントなピノ・ノワールの生産を目指していた人物。

カーネロスはナパのお隣ながら、その冷涼な気候で1970年代よりシャルドネにピノ・ノワールの適地として注目されてきた。ウォルターはジョゼフ・フェルプスで働きながら、1980年カーネロスにワイナリーを設立する。その際樽熟庫は、多くのカリフォルニアのワイナリーのように地上に設けるのではなく、山腹を掘削してつくり、ステンレスのタンクをはじめワイン用の器材、資材もフランス産のバリック以外は、熟成用の大樽も含めドイツから取り寄せた。という具合で、シュグはカリフォルニアにありながら旧世界の香りも纏ったワイナリーとなっている。

シュグではピノ・ノワールとシャルドネが主となるが、他にも白はソーヴィニヨン・ブランとリースリング、赤はカベルネ・ソーヴィニヨンにメルローも生産。ピノ・ノワールは、ソノマ・コースト・ピノ・ノワールとその上のカーネロス・ピノ・ノワール、それにカーネロス・ヘリティジ・リザーヴの3銘柄があるが、最もポピュラーなソノマ・コースト・ピノ・ノワールもぶどうは8割以上カーネロス産を使用。3本とも、ファットではない引き締まったボディを感じさせてくれるピノ・ノワールで、実際カーネロスのぶどう畑を一望できるワイナリーの裏手の斜面に立つと、サン・パブロ湾から絶えず吹き付ける冷たい海風と冷涼な気候を体感でき、テロワールとワインとの深い結びつきが如実に感じ取れる。

ワイナリーの裏手より臨むカーネロス全景
ワイナリーの裏手より臨むカーネロス全景
産するピノは3種類。右の2本はヴィンテージ違い
産するピノは3種類。右の2本はヴィンテージ違い
手前には大樽が並ぶ樽熟庫
手前には大樽が並ぶ樽熟庫
これらのステンレス・タンクもわざわざドイツから取り寄せている
これらのステンレス・タンクもわざわざドイツから取り寄せている